荒井裕樹
柏書房 2026年5月8日
もう誰にも動員させられたくない。この心は私のもの。あなたのもの。小さな「自分」を守ることで、誰かとつながる12の内緒話。
例えば、「世界で自分だけしか読んでいないかもしれない物語」に出会ったとき、「こんなマイナーな作品について書いたり語ったりしても無意味だよな……」と思うか、「自分が書かなければ/語らなければこの作品は存在しなかったことになってしまう」と思うかは、それぞれだと思います。
もし、あなたが後者の側に立つとして、いざ何か書き残そうとしても、そういう些細で、身近で、時に儚い出会いのエピソードは、論文のようなかっちりした形式には馴染まなかったりするものです。だから本書では「エッセイ」、それも「おしゃべり」するような言葉づかいで、少なくない読者がきっと抱いたことがあるであろう「この物語をなかったことにしたくない」というあの感覚に、迫ってみたいと思うのです。
“ここで私が話したいのは、もっと小さくて、些細で、身近で、時には儚いものについてなんです。(中略)世界的なマスターピースよりも、親しい人の打ち明け話のほうが大事になってしまったり、友だちが出したぜんぜん売れない自主制作本のほうにより感動してしまったり、なんてことは、誰にでも、多かれ少なかれ、あると思うんです。/これって、実はすごいことなんじゃないですかね。自分の心だけを打つものがこの世界に瞬間的に誕生しているというか、どうしようもなく自分の心を打つものがどうしようもないくらい自分以外の人に知られてないっていうか、そんな現象が発生しているということなので。/この現象、取り立てて研究なんてされないですけど、けっこう大事なものだと思うんです、人間にとって。/なんというか、人って自分でも気が付かないうちに、たった一人の読者を生きている瞬間があると思うんです。”(「はじめに」)